なんだ大丈夫じゃん

イラストと文で紡ぐ母と娘の日々のこと。

本当に本当の庭じまいと嵐の夜

ドスン。

作業を見守る自分の目の前で根元から切り落とされたその瞬間、安堵の気持ちと同時に一抹の寂しさも少し心に込み上げてきた。頑張って手入れを続けてきたけれど、もう自分達の手には負えないくらいまで成長していた我が家のシンボルツリー。遂に業者に頼んで切ってもらうことに決めた。

ほんの少し前まで全くそんな事考えてはいなかった。この間も大胆に娘と2人で剪定したばっかりだったし、下から出てきた新芽も大切に見守っていたくらいだった。でも何だかもうここら辺で一度区切りを付けたくなった。今までを続けるというのをもうやめにしたかった。小さな苗木だったその木を植えた頃の自分はもういない。

若く元気で希望に満ちあふれていた自分とともに大きく育った木。我が家の象徴ともいえるその木を切ることはそれまでの家族の小さな歴史のようなものを自らの手で終わらす行為のように思え、なかなか踏ん切りがつかなかった。でも自分達の手の届く中途半端な所で切ってしまったその木を見るたび、なんだか自分の姿のようでつらかった。宙ぶらりんの姿。ならばいっそリセットしてしまおう。引っ越してきた当初のように何もない所からまたスタートすればいい。

我が家の庭に初めて業者が入り、昼過ぎから作業が始まった。機械音とともに時おりドスンと音がし、切られているのが、家の中に居ても分かるくらい。夕方には確認のため業者の人と一緒にもう一度根元のところに立つ。「なんか寂しいでしょ?皆さんそう言います」と言うので、「はい、少しは。でも何だか安心してスッキリしました」と答えた。大きく育った木で影になっていた庭は明るくなり以前に比べて広く感じた。

パラパラ。作業が終わると同時に雨が降りはじめ、その夜は雷雨と強風で嵐のようだった。その木の涙のようでもあり、自分の涙のようでもある激しい雨。時おり聞こえる雷鳴と光に何度も目を覚ました。何かがようやく終わり、自分の執着もそれとともに薄れていった。今まで本当にありがとう。新しくなるから。