なんだ大丈夫じゃん

イラストと文で紡ぐ母と娘の日々のこと。

宝のびん

たぶん一回きりだと思う。その子の家に遊びに行ったのは。

あまり話したことのないその子の家になんで遊びに行くことになったのかはよく覚えてないのだけれど私はその日一人でその子の家にお邪魔していた。親は共働きらしく、年の離れたお兄ちゃんもまだ学校でいなかった。玄関を入ると靴箱の上に瓶があって何やらいっぱいえんぴつみたいにさしてあった。電気をつける前で薄暗くて見えなかったけれど、じーっと目を凝らしてみると、それはアイスの棒だった。しかも、当たりの。瓶にぎっしりとさしてある当たりの棒。

私は「どうしてお店でアイスと変えてもらわないの?」と聞いてみた。そしたら、「えーっ。分からない。母さんがそこに入れているから」との答え。私にしたら、宝のびんだけど、その子にしたら別に大したものではないらしい。「早く、入って」と友達に手招きされ部屋に通された私。「ちょっと待ってて。おやつ持って来る」と言うので、座って待っていたら、「こうして食べるとすっごく美味しいのよ」と当時、うちの家では高くて買ってもらえなかった、ブルボンのシルベーヌにバニラのアイスをすくって添えたものを出してくれた。シルベーヌだけでもすごいのに、アイスもつけてくれるなんて豪華すぎる・・・。一口食べて「おいし~」と声が出た。友達は「ねっ。おいしいでしょ」と得意顔。私も「本当」と2人でおやつを楽しく食べて何か色々おしゃべりして帰ったと思う。

家に帰ってから、どうして当たりの棒をその子があまり気にしていないのかが、なんとなく分かった。アイスもおやつもたくさん家にあって困っていないからだ。別に交換してもらわなくても、アイスは冷蔵庫にいつもあるのだ。私の家にあの瓶があったら、大変なことになるだろう。弟と取り合いのケンカになるだろうし、勝手にこっそり交換しにいくものも出てくるに違いない。なんだか恥ずかしい限りだ。

当たり付きの棒のアイスを食べると時々思い出すその日の事。アイスを一生懸命スプーンですくって添えてくれた豪華なおやつをどうもありがとう。すごくおいしかったです。