なんだ大丈夫じゃん

イラストと文で紡ぐ母と娘の日々のこと。

知らせに来たカミキリ虫

家から少し離れたショッピングモールに行った。用事もあったが、少し気分の落ち込む娘の気分転換も兼ねてのドライブ。とりとめのないおしゃべりをしながら無事到着し用事を済ませ、車に乗り込もうとしたとき、足元に何かの気配を感じた。

黒くてもぞもぞ動いている。よく見るとカミキリ虫だ。長い触覚に白黒ボディ。もう少しで踏んでしまいそうだった。ショッピングモールの周りには色々な木が植えられているとはいえ、駐車場のひどく人工的な感じに場違いなカミキリ虫。

これは何かを知らせてくれているのかもしれないとメモをしておく。家に帰ってネットで少し調べてみると、断絶、終了、悪い縁を断ち切ってくれるとかの意味を持つカミキリ虫。自分でも分かっているのに、スパッと切れていない事が色々あると改めて思う。

カミキリ虫と言えば、中学の時を思い出す。夏のこと、おばが泊まりに来て、虫が怖いという私を無視して網戸のない窓を全開にして寝たことがあった。夜中にぶーんという羽音に目を覚ました私はおばを起こさないよう、襖をそっと閉め、正体を確かめるべく電気を付けた。するとカミキリ虫が部屋を飛んでいたのだ。心の中でギャーと叫び、何か武器になるものを探したが、これと言って何もなく、その当時部活で使っていたテニスのラケットで戦うことにした。ボールを打ち返すみたいにカミキリ虫をラケットに当てたらいいとブンブン振り回すが、相手も必死だ。なかなかうまくいかない。電気の笠についているヒモに当たって電気が消えたり、机に当たったりと格闘すること数十分。ようやく窓のところまで追いつめたが、部屋の網戸は外から貼っていて逃がすことができない。疲れて眠かった私は仕方なくラケットで押さえて寝る事にした。朝になりそのラケットを外してみると、カミキリ虫の姿はなかった。たぶんラケットのすき間から逃げ出し開け放している窓から出て行ったのだと思う。

そういえば、その出来事の少し後、実家も色々あって家族はバラバラになってしまった。カミキリ虫の断絶とか終了とかっていう意味にぴったりのことが起きたのだ。遠い夏の夜、私の身に起こる事を知らせに来てくれたカミキリ虫。

時を越え、また私の前に姿を現したカミキリ虫は、いったい何の終わりを告げにきたのだろう。終了しなければ新しいことは始まらないのだから、悪い縁ならすっぱりと断ち切って先へ進みたいと今は素直にそう思う。