なんだ大丈夫じゃん

イラストと文で紡ぐ母と娘の日々のこと。

届かない枝

換気のために2階の窓を開けていると、窓から見えるオリーブの枝がもう少しで電線に届きそうなくらい伸びている。少し切らないとな・・・と下に降り娘に言うと彼女も2階に上がり窓の外を覗いた。

「下から少しずつ切ればいけるんじゃない?」と手袋と剪定くずを入れるゴミ袋を出してくれた。私は倉庫に脚立と高枝切りバサミを取りに行ってオリーブの下から、上の枝を覗き込む。娘も庭に出てきて「母さんが木に登って、さっと切ってくれるんでしょ?」と冗談を言った。以前ならそれに近いことができた。が、私にはもう気力が全く残されていなかった。体は重く、ここをどうしようなんて考えもしなくなっていた。去年庭をキレイにしたときには、そんな事はなかった。何とかしようと頑張っていた。

でももうここで何とかしようという気持ちがゼロに近く体は動かずただ空を見て「ムリだ」と一言、言ってしまった。娘も何か察したらしく「入ろうか」と言った。2人は黙って片付け、倉庫を閉め家に入ろうとしたら雨が降り出した。「もうやらなくていい」「もう十分だよ」そんな気がした。もうやらなくていい。

雨が降り、オリーブの剪定はまた今度となった。今度なんてたぶんないなって思った。もうムリはしなくていい。やらなくてもいい。それはできる人がやればいい。オリーブの下から伸びた若い枝みたいに新しく、柔らかく空に向かって両手を広げて無邪気に生き生きと・・・それじゃダメですか?上を向いた私にしとしととやさしく雨は降るばかりで答えてはくれない。なんだか涙が出そうになった。