なんだ大丈夫じゃん

イラストと文で紡ぐ母と娘の日々のこと。

遠い夏のほろ苦い味

レモンのケーキを食べた。レアチーズ的な味で輪切りのシロップ漬けしたレモンがのっている。大きかったけど、すごくおいしくてあっという間に食べてしまった。

レモンの輪切りのシロップ漬けを見て遠い昔の事を思い出した。中学の頃、軟式テニス部に入っていた。動機は単純で「エースをねらえ」というマンガを見て、テニスをやってみたいと思ったからだ。ゆる~い先輩達とそれでも毎日頑張っていた。

夏休みになり、その頃部活の中で流行っていたのが、レモンの砂糖漬けだった。夏バテに効くとか美容にいいとかで、先輩が作ってきたものを部活終わりにいただいて食べたら、すごくおいしくてその次の日から皆んなそれぞれの”レモン”を持ってくるようになった。砂糖だけではなく、はちみつをかけてみたりと色々工夫したレモン。木造のボロボロの更衣室にタッパーに入れたレモンを置いて、皆んなで着替えた後食べて家に帰る。そんな日が続いた。

ある日部活が終わって更衣室に行くと、友達が「きゃ~っ」と叫び声をあげた。皆んな、何?どうしたの?と駆け寄る。彼女のロッカーにアリがたくさん列を作って入っていっていた。アリのお目当てはもちろん、レモンの砂糖漬け。少しタッパーの外側に砂糖が付いていたのか、アリが真っ黒になるくらいタッパーにたかっていた。友達は慌てて水道水で流したけれど、アリは木造の更衣室の床にうじゃうじゃといて、皆んななんとなく黙って着替えてレモンを食べずに帰ったように思う。それからレモンの砂糖漬けのブームは部活内で静かに消えていった。何者にでもなれた若い可能性を秘めた自分。もっと何でも本気で打ち込んでいたなら、今どうなっていただろう。あの頃と同じように照り付ける太陽を見ながら、そんなことを思った。遠い夏のほろ苦い思い出。