実家にいるときのこと、父が知り合いから子犬をもらってきた。柴犬の子どもで、しばらく段ボールにタオルを敷いて飼っていた。犬の成長は早い。段ボールではもう対処しきれなくなってきていた。
母が「じいさん、犬小屋がいるんじゃない?」と父に言うと、
「そんなの分かっとる。待っとけ。」と言って、数日後、軽トラから何かを降ろす父。
「おい、おばあ、できたぞ。」と玄関前に置かれた犬小屋。
それは、錆止め塗装されたレンガ色の鉄製の犬小屋だった。
職人だった父。溶接の技術は素晴らしく、美しい。入口はアーチ状に切り抜かれ、きれいな曲線を描いており、丁寧に研磨され、犬にとっても安全だ。
「いいもんができた。」と満足顔の父に、
母が「冬は寒いし、夏は暑いんじゃない?」と一言。
弟も私も同意見だった。
その場の空気が変になり、やばいと思った。弟と私は、子犬を小屋へと誘導してみる。強すぎる素材の犬小屋に、子犬は入室を拒否。父は怒ってしまって「二度と作らない」とへそを曲げてしまった。
それからしばらく、犬は窮屈な段ボール暮らしをしていた。見かねた母がもう一度、なんとか頼んで、今度は木材で屋根はトタンの犬小屋を父は作ってくれた。入口には、でたらめの生年月日と勝手に父がつけた犬の名前に”君”をつけ、達筆な字でプレートまでつけていた。
犬はその小屋が気に入り、いつもトタンの屋根の上に乗っかって、番犬としての務めを立派に果たした。