なんだ大丈夫じゃん

イラストと文で紡ぐ母と娘の日々のこと。

掘り進めた先

読んだ小説の中に主人公がお酒に酔ってレコードをかけるシーンがあった。アーティスト名が記されていたのでCDを買ってみようかなと思った。小説の世界を身近に感じられるかもしれないし、もしかしたら自分の好みの音楽かもしれない・・・。

ちょうど用事があって出掛けた街には時々行く中古レコードとCDの店があったから、そんな期待を胸に寄ってみる。毎度ながら、だいたいお客さんはおじさんばかり。紙ジャケのCDコーナーを見ている人やスマホ片手にCDを吟味する人など、様々。いつも不思議と静かで私はこういう感じが大好き。それぞれが集中しているのだけど、人への配慮もあってなんかいい。

おばさんの私もメモを片手にジャズのコーナーへ。ジャズは詳しくはない。一時期凝って色々聴いてたけど、最近はビル・エヴァンスばかり。今の自分にはしっくりくる。その小説の中に出てくるアーティストのCDが一枚だけあった。買おうと思ったアルバムではないけど購入する。

思えば若い頃、本のレビューを見てCDやレコードを買ったり友達に勧められたものを聴いてみたりと、ほとんど手探りであるジャンルを自分なりに掘って深めていった。失敗も多かったけど、とにかく楽しかった。そのジャンルは今でもやっぱり大好きだ。家に帰ってCDを聴いてみる。洗練された都会的な感じで悪くはない。

でもしばらく聴いていて、ふと思った。もういいんじゃないかって。こうやって広げていくのはもうやめようかなって。どこか自分の知らないすばらしい世界があると思ってずっとずっと広げ続けてきた。食べること、音楽、インテリアに本など、あらゆるジャンルを広げ、堀り続けてきたけれど、もうなんだか疲れてしまった。

今、知っているもの、持っているものを大切にしたい。知らなければならないことは勝手に向こうから来るだろうから、自分からアプローチするのはもうやめよう。色々広げて深めた結果、今残っているものが本当に”自分の好きなもの”なのかもしれないなあと、当たり前の事に気が付く。そう思うと、なんだかホッとした。もう探しに行かなくてもいいんだ。大切なものはすでに手の中にあるではないか。