なんだ大丈夫じゃん

イラストと文で紡ぐ母と娘の日々のこと。

ほろ苦いチョコの思い出

小学生の低学年の頃、住んでいた集合住宅に時々、パン屋さんが車で来ていた。のん気な音楽をかけて、突然やってくる。子供たちは、それを聞きつけて走っていく。

いつもは、その光景を羨ましく見ているだけだった。でもその日母が、「パンを買っておいで」と言うではないか。これは夢か?・・・後にも先にもたぶんこれ一回きりだと思う。母にお金をもらい、パン屋さんの車の所へ行って、パンを選ぶ。車に作り付けられた棚に、キレイに陳列された菓子パンたち。キラキラしている夢の世界。一番食べてみたかったチョコレートのパンにした。クリームが真ん中に挟んであって、チョコレートが上からかけられているもの。うれしくて大切に持って帰る。

パン屋さんが来た時は、みんな外で食べていたから、私もその仲間に入って食べようと思った。そして、パンを横に置いて、コンクリートの段差に腰をかけ、食べようとした。でもなぜか一瞬、ほんの一瞬パンを置いて、その場を離れてしまったのだ。次に戻ってきたとき、パンはなくなっていた。私は母に泣きながら訴えたが、「自分が悪い」と言われ、新しくは買ってはもらえなかった。すごく悲しかった。

その後、大人になってもそういうチョコのパンが好きなのは、その時の苦い思い出による影響なのかもしれない。