なんだ大丈夫じゃん

イラストと文で紡ぐ母と娘の日々のこと。

男たるもの

まだ結婚したばかりの時、義父と母と旅行に行ったことがあった。父は動物が好きでサファリパークに行きたがっていた。バスで園内を回り、エサをあげるポイントに差し掛かると、お肉を火箸のようなもので、あげたりして、動物をいつもより近くで見れて嬉しそうだった。この旅行は父が連れて行ってくれたもので、私達はプランを立てるだけ。なんで旅行に行こうってなったのかは覚えていないのだけど、たぶん泊りがけで旅行に父と行ったのは、後にも先にもこれ一回きりだと思う。父は仕事で長期出張に行くのもすごく嫌がった。出張で行くと、仕事のみんなとごはんもお風呂も一緒のことが多い。私が思うに、食べ物の好き嫌いもすごくあったし、恥ずかしかったのかな・・と思う。

そんな父がこの旅行の後、すごく後悔していたことがある。何回もその話をするので、余程心残りだったのだろう。「わしは、トラの赤ちゃんを抱っこして写真が撮りたかった」と言うのだ。園内の出口近くに、記念写真のコーナーがあった。有料でトラの赤ちゃんと撮る記念写真。皆んな、旅行の記念にと写真を撮っていた。父はすごく、トラの赤ちゃんを抱っこしたかったみたいだ。

でもそこは戦前生まれの父。「女、子供のするような事を男のわしがするなんて恥ずかしい」と遠巻きに人が写真を撮るのを羨ましそうに見ている。そして、男の沽券に関わると我慢して帰った。トラの赤ちゃんを見ると思い出す。父の男の痩せ我慢。大げさかもしれないけれど、なんか、カッコイイね。