なんだ大丈夫じゃん

イラストと文で紡ぐ母と娘の日々のこと。

黒いシャツ

一度も袖を通していない黒のかっこいいシャツ。クローゼットの中でハンガーに吊られもう何か月も眠っている。そのシャツを見るたび、いつも心の奥がチクチクしていた。私は本当にこのシャツを着たいって思っていたのかなって。大好きで嬉しいのなら、買ったその日にすぐに着て外出したはずなのに、季節がきたらとか元気になったらとか、痩せたらとか、もっともらしい理由をつけて袖を通すことをなぜか拒んでいた。

馴染めない自分、借り物の自分、本物ではない自分。ここ何年も本当に苦しかった。誰かに強制された訳ではない。自分で自分を縛り付けていた日々。どうして長年そうして自分をイジメていたのかは、今はまだ分からない。イジメていたという感覚もなかった。むしろ喜んでやっていたと思っていた。純粋に音楽を楽しむこと、その好きの延長線上にあるアーティストを真似したり、それっぽいアイテムを身に付けるという喜び。だけど私は空っぽな自分を見透かされたくなくて、外見を武装しようとしていたのかな?洋服なんて関係ない。音楽に助けられたり、心打たれたり、涙したり、楽しかったり、それでいいのに・・・。

今はまだ自分が納得できる答えを見つけられてはいない。どうしてそんなに”型”や”外見”にこだわるようになっていしまったのか?結果的にそれが自分を苦しめることになってしまったのだけど、その理由は胸の奥の深いところに押し込められていて、厳重に鍵がかけられたままだ。鎖でぐるぐるまきにされた私の心。ごめんね、黒いシャツ。私には無理だったよ、本当にごめん。でもあなたを処分するって決めたとき、正直ホッとした。もう着なくていいんだって。これが答えなのかな?